2007-03

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僕の脱落史(番外編)−入学以前−

 僕はいつから脱落者になってしまったのだろう。今日は大学入学以前の自分を振り返ってみようと思う。
 まず思い当たるのは、やはり乳児期だろうか。とにかく乳離れが遅く、歯が生えてもまだ母乳を吸っていたらしい。話すのも歩くのも遅かったと聞いている。あと3歳の時点で虫歯が多かったとか。おそらく僕の精子は、卵子にたどり着くのは遅かったにも関わらず、何かの間違いで先着した精子たちを出し抜いて受精してしまったタイプだと思う。
 冗談はさておき。今に直結する脱落人生が始まったのは高3の夏だと思う。僕は物心つく前から野球少年で、それまでは甲子園に出ることを夢見続けてきたものだから、高3の夏の大会で負けた瞬間、人生の目的を見失ったのである。2回生の回顧録で同じようなことを書いた気もするが。そんなわけで受験勉強は全く手に付かず、当時の1日の勉強時間は平均で1時間強だったと思う。センター試験は620点で、前期はもちろん不合格。後期は足切りだったため、人より長い春休みを楽しんだ。

 1浪目は宅浪することにした。予備校のカリキュラムに縛られない自由な人間に憧れていたし、独学で合格するのが格好良いとか思っていた。しかし考えれば分かるように、現役のとき自発的に勉強しなかった人間が、浪人したから勉強するようになる道理はない。机に向かったり外を歩いたりしながら、青年らしく悶々と悩んでいた。
 その秋、僕は宇宙を悟った。ある日、それまで自分を束縛していた俗世の価値観から解放され、宇宙の真理と直接の繋がりを感じるという神秘的な体験をした。実際には新興宗教レベルの擬似的な諦観だったと思うが、肩の力が抜けて人生が楽になったのは事実である。そして、以前から直感的に会得していた享楽主義、人生の目的を失ったことによる虚無感、日共スタの影響を色濃く反映した機械的唯物論などが混じり合い、結果的に僕が選択したイデオロギーは老荘思想だった。
 老荘思想は、世界観、歴史観、日常生活、美意識、人間関係など、僕の人生哲学の全ての領域に強い影響を及ぼした。そして受験勉強にも。老荘的な受験勉強とは如何なるものか。まず老荘は言語や学問を否定する。だから受験勉強などしない。百歩譲ったところで、苦しみに耐えてまで知識を詰め込むことを善しとしないし、合格と不合格の対立すら止揚してしまうのが「道」であるはずだ。そんなタオイスト受験生のセンター試験は623点。前期はもちろん不合格。後期ももちろん不合格。来年は予備校に行こうと決意した。

 2浪目は予備校に通った。十三にあった大阪北予備校(通称、北予備)。遠足があったりソフトボール大会があったり、北予備に行ったら遊んでしまうということで、同級生などから評判があまり良くなかったが、「関西にめっちゃ強い」というキャッチコピーは事実であり、実績を計算すれば大手予備校を上回っていたと思う。それに自習室が充実していたし、何より授業料が安かった。しかし一方で、遊んでしまう人間というのも一部いて、僕はそちらの人間だった。
 朝起きて、真面目に登校していた。午前も3コマのうち1コマ眠っていた以外は、真面目に授業を受けていた。午後も人の流れに沿って、真面目に自習室に入った。そして教科書とノートを開いた。しかし10分もすると、眠たくなってきて勉強が進まず、少し眠ってからにしようと机に伏す。いつも決まって約50分後に目覚める。げっぷが出る。すると1回目の休憩時間に入り、喉も渇いたし身体も伸ばしたいしで一時退室する。そして階下の食堂へ行くと、同志たちが待ち受けているのである。同じように自習室に耐え切れず、気分転換や息抜きと称してサボっている脱落者たち。クラスの壁を超えた強固な絆で結ばれた彼らこそが、共に受験戦争を闘い抜いた僕の戦友である。
 しばらく食堂で駄弁っていた一団は、やがて予備校から脱出し、淀川河川敷へと繰り出す。本当は受験勉強をやらねばと思いながら遊ぶ遊びほど面白いものはない。何の遊び道具もない淀川河川敷で、毎日飽きもせず楽しい時間を過ごした。夜になるとある人はゲーセンに通い、ある人は180円ラーメンで間食し、最終的に駅前のミスドに人が集まるのである。別に打ち合わせたわけでもなく。予備校は21時に閉まるのに、終電で帰宅することが多かった。
 夏はみんなで淀川花火に行き、僕の二十歳の誕生日を祝ってくれ、酒に酔いながら9・11のニュースを眺め、秋のソフトボール大会では京大文系クラスが優勝し、名古屋までキセル乗車してきしめんを食べに行き、大晦日恒例のマラソン自習室では深夜0時まで自習室の机で年賀状を書き続け、年が明けてからも告った告られたの恋バナが相次ぎ、センター試験5日前の成人式にも出席した。
 秋の京大模試でも平気でE判定を出していたし、マーク模試で600点を超えることもなかったが、不思議なことにセンター試験は681点、前期で数学を4完したこともあり、奇跡的に合格した。内輪では採点ミスに違いないと囁かれている。しかし奇跡というのは、あまり起こらないから奇跡なのであって、僕が全員の運を使い果たしたらしく、予備校で一緒に遊んでいたグループのうち約半数は、もう一浪した。
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プロフィール

Author:RockRockSoul
 京都大学文学部6回生。1981年8月兵庫県西宮市出身。26歳。単位や友人の少ない学生が集うサークル京都大学脱落派の創始者。2007年3月の記事を読んでいただければ、僕の略歴や現状について概ね把握できるかと思います。

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